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2021年3月24日水曜日

第275回研究会

● 日時:           202036日(土) 151830

● 会場:           Web会議システム「Zoom」を使用して開催します

● 報告者①:   鈴木秀美(慶應義塾大学) / 報告者②:宮地基(明治学院大学)

● 報告判例①: 2019116日の第1法廷決定(BVerfGE 152, 152、忘れられる権利第1事件)

https://www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Entscheidungen/DE/2019/11/rs20191106_1bvr001613.html

/ 報告判例②: 2019116日の第1法廷決定(BVerfGE 152, 216、忘れられる権利第2事件)

https://www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Entscheidungen/DE/2019/11/rs20191106_1bvr027617.html

     コメンテーター:中西優美子(一橋大学)

 

➣ 決定要旨(報告①)

1. a) EU法により完全には確定されていない国内法について、連邦憲法裁判所は、たとえその国内法がEU法の実施に役に立つ場合であっても、第1次的には基本法の基本権を基準に審査する。

b) 基本法の基本権の第1次的な適用は、EU法が、加盟国に個別法上(fachrechtlich)の形成の余地を与えている場合には、通常、基本権保護の統一性を目指しているのではなく、基本権の多様性を許容しているという仮定に依拠する。

このことは、さらに、EU基本権憲章(以下では、「憲章」)の保護水準が、基本法の基本権の適用によって共に保障されているという推定に及ぶ。形成のために開かれている個別法(Fachrecht)における基本権的多様性の仮定の例外または憲章の保護水準が共に保障されているとの推定の否定は、そのための具体的かつ十分な手がかりがある場合に限り考慮されなければならない。

2.  a) 個人についての記事および情報が公的コミュニケーションの一部として流布されることにより生じる危険からの保護についての憲法上の基準は、一般的人格権の言論法上の諸形成(den äußerungsrechtlichen Ausprägungen)にあり、情報自己決定権にはない。

b) 保護請求権についての判断に際しては、インターネットのコミュニケーションの条件の下で、時間がある特殊な重要性をもつ。法秩序は、ある人物が、過去の地位、発言および行為を無限に公衆にさらされなければならないことから保護する必要がある。過去の出来事が後退することが可能になることによってはじめて、個人には自由における新たな出発の機会が開かれる。自由の時間性には、忘却の可能性が含まれる。

c) 一般的人格権から、コミュニケーションの過程の枠内で交換された個人についてのあらゆる情報をインターネットから削除させる請求権は生じない。とりわけ、公衆がアクセス可能な情報を、自由な判断により、かつ自己の考えでフィルターにかけ、本人が重要であると評価する観点、または自己の人格像にとって適していると評価する観点に限定する権利はない。

d) その記事をあるオンライン・アーカイブに掲載した出版社と、その記事によって報道された本人の間の基本権の調整のためには、その出版社が、本人の保護のために、インターネット上の古い記事――とりわけ名前を用いた検索行為に際して検索サービスによる発見可能性――の解明および流布を、実際にどの程度まで阻止することができるかが考慮されなければならない。

3.      言論法上の保護の次元から、一般的人格権のひとつの独自の形成としての情報自己決定権は区別されなければならない。これも、私人間において意義を展開することができる。その際、その効果は、国家に対する直接的な効果とは異なる。その際に保障されるのは、どのような文脈でかつどのような方法で、自己のデータが他者からアクセス可能であり、他者によって利用されるかについて多種多様な方法で影響を及ぼす可能性であり、したがって自己の人格の描写について自分で実質的に共に決定する可能性である。

 

➣ 決定要旨(報告②)

1.      基本法の基本権がEU 法の適用優位によって排斥される場合には、連邦憲法裁判所は、ドイツの官署によるEU法の適用をEU法を基準としてコントロールする。これによって連邦憲法裁判所は、基本法231項による自らの統合責任を履行する。

2.      EU法上完全に統一された諸規制を適用する場合には、EU法の適用優位の原則により、基準となるのは原則としてEU法だけであって、基本法の基本権ではない。適用優位は、とりわけ、基本法の基本権に代わって適用されるEUの基本権が十分に実効的であることを条件とする。

3.      連邦憲法裁判所が、EUの基本権憲章を審査基準として用いる場合、連邦憲法裁判所は、欧州司法裁判所との密接な協力の下でコントロールを行う。EU機能条約2673項の基準に従い、連邦憲法裁判所は、欧州司法裁判所に照会する。

4.      基本法の基本権と同様に、基本権憲章の基本権も、国家と市民の関係においてのみならず、私法上の紛争においても保護を提供する。したがって基準となるEU個別法に基づいて、関係者らの基本権が相互に調整されなければならない。その場合に連邦憲法裁判所は、――基本法の基本権の場合と同様に、――当該個別法を審査するのではなく、各部門裁判所が憲章の基本権を十分に考慮に入れ、是認可能な調整を行ったかどうかだけを審査する。

5.      当事者らが、検索エンジン運営者に対し、ネット上の特定のコンテンツの検索結果表示およびリンクをしないように求めている限り、これによって必要になる衡量の中には、当事者の人格権(基本権憲章7条および8条)と並んで、検索エンジン運営者の企業の自由(基本権憲章16条)の枠内で、それぞれのコンテンツ提供者の基本権およびインターネット利用者の情報の利益も含めなければならない。

検索結果表示の禁止が、当該公表物の具体的なコンテンツに関連して発せられ、当該コンテンツ提供者がそれによって、禁止がなければ利用できたはずの自らを流布するための重要な媒体を奪われてしまう限りは、当該内容提供者の意見表明の自由が制約されている。